「投資をして資産を増やしたいけれど、大きく元本を減らすのは怖い。安定性と高い収益性の両方を求めるのはわがままなのだろうか……。」
これは30代後半の独身男性によく見られる率直な悩みです。2024年の調査でも、「投資先に安定性を求める」という人が77.8%と圧倒的に多い一方で、「収益性も諦めたくない」という回答が63.9%にのぼり、相反する2つの要素をどう両立させるかが大きなテーマとなっています。
そこで本記事では、投資信託の選び方を中心に、安定性と収益性をバランスよく狙うためのポイントを解説します。長期運用におけるドルコスト平均法の活用や、2024年から始まった新NISA・iDeCoのメリット、そしてiDeCo受取時に関係する退職所得控除の活用法も踏まえながら、30代後半独身男性の資産形成に役立つ実践的な知識をご紹介します。
安定性と収益性はなぜ両立しにくいのか
リスクとリターンの基本的なトレードオフ
投資の世界では、「リスクが高いほどリターンも大きくなる」一方、「リスクが低いとリターンも限定的になる」というトレードオフがあります。たとえば、株式100%のアクティブ投資信託はハイリスク・ハイリターンが期待できますが、債券中心の安定型投資信託は元本変動が小さい反面、大きなリターンは得にくいのが一般的です。
例:Aさん(38歳・独身・メーカー勤務)
- 過去に株式投資で大きく損をした経験があり、リスクの高い商品には抵抗を感じている。しかし銀行預金だけでは増やせない。
- 解決策: 株式投信と債券ファンドを組み合わせるバランス型ファンドなどに注目。1本のファンドで自動的に資産配分を行ってくれる商品を活用し、過度なリスクを抑えながら無理なく継続する。
30代後半独身男性が抱える特有の不安
30代後半の独身男性は、今後結婚やペット飼育、あるいは親の介護など、多様なライフイベントの可能性を抱えています。相場の急落で元本を大幅に減らしてしまうと、将来必要となる大きな支出に対応しづらくなるのが不安要素です。
一方で、40代以降の収入アップが確実に見込めるとも限らないため、「今のうちにある程度資産を増やしたい」という思いも捨てがたい。安定性と収益性を同時に求めるジレンマは、こうした背景から生まれます。
投資信託選びで安定と収益を両立するコツ
分散投資を自動化するバランス型ファンド
バランス型ファンドは、株式・債券・REIT(不動産投資信託)など複数の資産を1本で運用する商品です。ファンド側が資産配分を調整してくれるため、リバランスの手間が大幅に軽減され、値動きの安定性も高まりやすいという利点があります。
仕事の忙しい30代後半のビジネスパーソンにとって、1本でポートフォリオを自動管理してもらえる点は大きな魅力です。
例:Bさん(37歳・独身・IT企業勤務)
- 毎日チャートを見る時間はなく、資産配分もどう組んでいいか分からない。
- 解決策: 世界株式と世界債券を組み合わせたバランス型ファンドにコツコツ積み立て。年1回だけ運用成績をチェックしており、リスクが分散されている分、暴落時の不安が減った。
インデックス型とアクティブ型の組み合わせ
投資信託には、指数(インデックス)と連動するインデックス型と、ファンドマネージャーの裁量で運用し市場平均を上回ることを目指すアクティブ型があります。インデックス型は信託報酬が低いので長期投資向きです。アクティブ型はリターン上振れの可能性もありますが、信託報酬が高めで必ずしも市場平均を上回れるわけではありません。
収益性をやや重視したいなら、インデックス型を基盤に、興味のあるアクティブ型を少しだけポートフォリオに加えるといった形でリスク分散を図るのがおすすめです。
ドルコスト平均法で相場変動のリスクを低減
定期的に一定額を買い付ける仕組みの強み
安定性を求めつつ投資したい場合、ドルコスト平均法(つみたて投資)は相性が良い手法です。価格が高いときには少なく、安いときには多く買う形になり、平均買付単価が平準化します。
日々の値動きを気にしすぎなくてもよく、心理的負担が軽いのも利点で、仕事が多忙な30代後半にとって続けやすい点が評価されています。
例:Cさん(39歳・独身・事務職)
- 過去の急落局面でパニック売りし、大きく損をした。
- 解決策: つみたて投資に移行し、相場を細かくチェックしない方針に変更。ドルコスト平均法を使うことで下落時を「買い増しチャンス」と捉えられるようになり、結果的に長期的なリターンが安定。
iDeCoや新NISAでも活きるつみたてのメリット
2024年からスタートした新NISAでは、つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠を併用可能になり、非課税保有期間も無期限化されました。iDeCoも毎月拠出でドルコスト平均法を活かす仕組みのため、老後資金作りにぴったりです。
30代後半独身男性なら、老後資金のメインをiDeCoで積み立て、余裕資金を新NISA枠で運用するなど、長期的な視点での資産形成が可能です。
安定性を強化する資産配分と生活防衛資金
債券・現金ポジションを組み合わせる効果
安定性を高めるうえでは、株式だけでなく債券や現金も一定割合持つことが重要です。株式市場が急落しても、債券部分が大きく値崩れしにくければ、ポートフォリオ全体の損失が抑えられます。また、生活防衛資金として数か月分の生活費を現金で確保しておけば、思わぬ出費が発生しても投資部分を取り崩すリスクが減少します。
例:Dさん(38歳・独身・公務員)
- 全資産の8割を株式投信に充てていたが、コロナショック時に評価額が急落し、不安のあまり売却してしまった。
- 解決策: 債券型投信や定期預金を組み入れ、株式比率を6割に抑制。さらに生活防衛資金を現金で3か月分確保し、下落相場が来てもパニック売りせずに済むようになった。
安定性と収益性の配分比率
各個人のライフスタイルやリスク許容度によって、たとえば安定性60%・収益性40%といったポートフォリオ配分が可能です。30代後半の独身男性は、まだ時間的余裕がある一方で、将来のライフイベントにも備えなくてはなりません。
安定性を若干重視しておくことで、大きな損失を抱えずにコツコツ増やしながら、収益性をある程度確保するバランスを見出すことが重要です。
iDeCoと退職所得控除で老後資金を効率的に準備
iDeCo受取時に活きる退職所得控除とは
iDeCoでは、60歳以降に一時金(または分割)で受け取りが可能です。もし一時金として受け取る場合は「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されます。退職所得控除は、勤続年数(iDeCo加入年数)に応じて課税対象額を大幅に減らせる制度です。
- 勤続(加入)年数が20年以下の場合:
40万円 × 勤続年数(最低80万円) - 勤続(加入)年数が20年超の場合:
800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)
計算式 (収入金額−退職所得控除額)×12( \text{収入金額} – \text{退職所得控除額} ) \times \tfrac{1}{2}
これにより、実際に課される税額が大幅に軽減される可能性があります。
例:Eさん(39歳・独身・自営業)
- iDeCoに加入中で、老後に一時金でまとめて受け取りたいと考えている。会社勤めではないので企業年金はなし。
- 解決策: iDeCoで一定額を積み立て続ければ、退職所得控除をフル活用できる見通し。将来会社の退職金と重ならない分、控除枠がまるごと生かせる。
他の退職金とのタイミング調整に注意
退職金とiDeCoの一時金を同じ年に受け取ると、それらが合算されて同じ退職所得控除枠を使うため、課税所得が増えるリスクがあります。逆に別々の年度で受給すれば、それぞれ独立した退職所得控除を受けられる場合があり、結果として税負担が下がります。
5年以内に複数回にわたり退職金等を受け取る際は、勤続年数の算定が通算されるなどの制限もあるため、タイミングを工夫して受け取ることが重要です。
新NISAで非課税投資枠を最大限に活かす
2024年からの新NISA制度の特徴
新NISAは、成長投資枠(年間240万円)とつみたて投資枠(年間120万円)が併用でき、合計360万円まで非課税投資が可能です。非課税保有期間は無期限となり、さらに生涯非課税限度額1,800万円(つみたて投資枠は1,200万円)という仕組みに変わりました。
安定性を重視する場合はつみたて投資枠中心、ややリスクをとってリターンを狙いたい場合は成長投資枠を活用するといった使い分けができます。30代後半で投資余力がある方は、iDeCoと併せて利用すれば、老後資金に加えて中期的な資金ニーズにも柔軟に対応できるでしょう。
リバランスとライフイベントへの備え
新NISAで投資信託を積み立てていても、一度設定した商品を放置すると、資産配分が大きく偏る可能性があります。年1回程度の運用状況チェックとリバランス(株式・債券などの比率調整)を行い、安定性と収益性のバランスを維持しましょう。
ライフイベントが近づいたときには、成長投資枠の株式やETFを売却して現金化し、必要資金に充てる戦略も考えられます。こうしたフレキシブルな対応が、新NISA制度の強みでもあります。
まとめ
安定性と収益性を同時に求めるのは一見難しいように感じられますが、投資信託を適切に選び、分散投資とドルコスト平均法を取り入れることで、30代後半の独身男性でも両立をめざすことが可能です。さらに、**iDeCo受取時に「退職所得控除」**が適用される点を押さえておくことで、老後一時金の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
- バランス型やインデックス型を中心にすれば、手間をかけずに分散投資が実現。
- ドルコスト平均法で相場変動に翻弄されず、長期的な安定運用を狙う。
- iDeCoで老後資金を確実に積み立て、退職所得控除を活かすことで一時金受取時の税負担を削減。
- 新NISAをフル活用し、つみたて投資枠・成長投資枠を使い分けて非課税メリットを最大限に。
- リバランスを定期的に行い、人生のライフイベントに合わせてリスク許容度を見直す。
30代後半の今だからこそ、老後に向けたiDeCoの節税効果と新NISAの非課税枠を組み合わせて、安定性と収益性をバランス良く追求しましょう。結婚や親の介護など思わぬ出費が重なる可能性もあるからこそ、安定と成長の両輪を意識した投資こそが、長期的に見て最善の選択肢となるはずです。