金(ゴールド)への投資について調べると、ネット上では「金投資はやめたほうがいい」「金投資はやめとけ」といった否定的な意見を目にすることがあります。なぜこのように言われるのでしょうか?主な理由として、金投資には他の投資手段と異なる特徴やコストがあり、注意しないと期待通りの利益を得にくい場合があることが挙げられます。例えば、「金は利息や配当を生まない」「手数料やスプレッド(売買差額)が大きい」「現物の管理が面倒」などの点です。実際、金は保有しているだけでは配当金も利息も得られず、売却して初めて利益が確定する資産です。また購入時には数%程度の手数料がかかったり、売却価格が購入価格より低く設定されるスプレッド(差額)によって利益が削られたりします。こうした理由から「割に合わない」「初心者にはおすすめできない」との声が出ているのです。
しかし、こうした否定的な意見だけを鵜呑みにしてしまうのは適切ではありません。金投資にはデメリットだけでなくメリットも存在し、正しく理解して活用すればポートフォリオの安定に役立つ資産となり得ます。実際、「有事の金」と呼ばれるように戦争や大災害など経済が不安定な局面でも価値を維持しやすいのが金という資産です。金投資で資産全体のバランスを取り、安定した収益を得ている投資家も少なくありません。大切なのは金投資の特性を正しく理解し、自分の資産運用方針に照らして取り入れるか判断することです。本記事では、金投資のメリット・デメリットや投資方法の違いを解説し、不安を感じている方が「やめるべきか」判断する助けになる情報を提供します。
金投資のメリット・デメリットとは?
金投資のメリット
金投資には他の資産にはないいくつかのメリットがあります。代表的なものは以下4点です。
- 金投資はリスク分散効果が高く有事の安全資産として資産防衛に役立つ
- 金が希少資源であることから、インフレ時に価格が上がりインフレヘッジしやすい
- 流動性が高く世界共通で価値がある
- 少額から投資しやすい
これらの特性があるため、資産運用の中で金を一定割合組み入れることはリスク低減策として理にかなっていると言えます。以下でそれぞれについて詳しく説明します。
1.金投資はリスク分散効果が高く有事の安全資産として資産防衛に役立つ
金は株式や債券とは異なる値動きをするため、分散投資の手段として有効です。特に景気後退や金融危機などで株価が急落する局面では、資金の逃避先として金価格が上昇する傾向があります。実際、2020年初頭のコロナショックでは株式や債券が暴落する一方で金は最高値を更新しました。このように金をポートフォリオに組み入れておくと、有事に資産価値の下落を和らげる「保険」として機能します。
2.金が希少資源であることから、インフレ時に価格が上がりインフレヘッジしやすい
金は希少資源であり、そのもの自体に内在的価値があります。発行体の信用に依存する通貨と異なり、極端なインフレで通貨価値が下落しても金自体の価値は相対的に上昇しやすい傾向があります。また埋蔵量に限りがあるため、紙幣のように無制限に増刷されて価値が希薄化する心配もありません。歴史的に見ても金は長期的には価値を維持・向上させており、「資産価値がゼロになることはない」とされています。インフレや通貨不安に対する実物資産としての安心感が金の大きな魅力です。
3.流動性が高く世界共通で価値がある
金は世界中で価値が認められている資産であり、現物でも金融商品でも比較的簡単に売買できます。現物の金地金(ゴールドバー)や金貨は世界どこでも換金性が高く、いざというとき現金化しやすい資産です。また金ETFなど金融商品としての金も市場で活発に取引されており、売買の流動性は高いです。国境を越えて通用する価値という点で、金はグローバルな資産分散先として有用です。
4.少額から投資できる
金投資というとまとまった資金が必要なイメージがありますが、純金積立や金ETF・投資信託を利用すれば少額から始めることができます。純金積立なら月々1,000円程度からコツコツ金を買い増すことが可能です。また金の積立や金関連の投資信託ではドルコスト平均法による長期積立ができるため、価格変動リスクを平準化しながら購入できるメリットもあります。大きな資金がなくてもスタートしやすい点は、初心者にとって金投資の魅力の一つでしょう。
金投資のデメリット
一方で、金投資には留意すべきデメリットやリスクも存在します。代表的なポイントは次のとおりです。
インカムゲインがない
前述の通り、金そのものは保有しているだけでは利息も配当金も生みません。株式投資であれば配当金、不動産投資なら家賃収入といったように、保有中に入ってくる収益(インカムゲイン)が期待できますが、金は売却して初めて利益を得る資産です。そのため長期保有しても途中で現金収入はなく、「寝かせている間の副次的メリットが一切ない」という点が指摘されています。保有中に収益を得たい人にとって、これはデメリットになります。
手数料など取引コストが高め
金投資では購入時の手数料や管理費用などのコストが他の投資商品より割高になる傾向があります。例えば現物の金地金を購入する際は、一般的に購入額に対して2~3%程度の手数料がかかります。これは、株式の売買手数料(ネット証券なら約0.1~0.2%)や投資信託の信託報酬(年率1%前後)と比べても高い水準です。手数料負担が重い分だけ、同じ価格上昇でも手元に残る利益は目減りします。例えば金価格が5%上昇しても3%の手数料がかかれば実質利益は2%に落ちてしまいます。特に少額積立では得られる利益より手数料負けするケースもあり得るため、コスト面のハンデは無視できません。
スプレッド(売買価格差)が大きい
金の売買では、買うときの価格と売るときの価格に差(スプレッド)が設けられているのが通常です。例えばある日の金の市場価格が1グラムあたり8,000円だとしても、小売店での購入価格は8,200円、買取価格は7,800円といった具合に差が生じます。このスプレッドが他の投資商品に比べて広めであることもデメリットです。スプレッドは実質的な取引コストであり、取引の度に利益を削る要因となります。特に純金積立や金投資信託のように積立で何度も売買を行う場合、積み重なるスプレッド負担が馬鹿になりません。金投資では売買回数が増えるとその分コストも膨らみやすい点に注意が必要です。
現物保有の場合の管理リスク
金を現物(地金や金貨)で保有する場合、自宅で保管すると盗難や紛失、損傷のリスクがあります。金庫を用意したり厳重に保管したりと手間もかかるでしょう。銀行の貸金庫を利用すれば安全性は高まりますが、その場合年間1~2万円程度の保管料が発生します。このように、現物資産特有の管理コスト・リスクがある点もデメリットです。金そのものは腐食しないとはいえ、取り扱いを誤ると傷が付いて価値が下がることもあります。手元に置かずに信託会社等に預ける純金積立でも、多くの場合保管手数料がかかります。現物保有は安心感と引き換えに管理の負担が増すことを理解しておきましょう。
税制上の優遇が限定的
金投資はNISA(少額投資非課税制度)や税制面で他の商品ほど優遇されないケースがあります。例えば純金積立や金ETFなど金関連商品は従来の「つみたてNISA」の対象外となっており、投資信託のように非課税枠を使った運用ができません。そのため運用益に対して原則課税されてしまい、手取り利益が目減りしやすいと言えます。また現物の金を売却して得た利益は「譲渡所得」として総合課税の対象となり(年間50万円の特別控除あり)、給与など他の所得と合算されて税率が決まります。利益が大きいと高額所得とみなされ高税率が適用される可能性があります。一方、金ETFの売却益は株式譲渡益と同様に20.315%の分離課税(申告分離課税)で、株や投信との損益通算も可能です。このように税扱いが商品によって異なる点も考慮が必要ですが、少なくとも積立NISAなど税優遇制度を活用しづらい点は金投資のハンデと言えます。
価格変動が大きい場合がある
金は安全資産とはいえ市場価格は日々変動します。短期的には需給や為替、金利動向などに左右され、意外に値動きが激しいこともあります。例えば米ドル高や金利上昇局面では金価格が下落する傾向があり、過去にも一年で数十%下落した例があります。短期売買で利益を狙うのは難しく、急落のリスクもあるため、「金価格は常に安定して右肩上がり」というわけではない点に注意が必要です。
以上が主なデメリットです。まとめると、金投資はコスト面の負担が重く、保有中の収益がなく、短期では思わぬ価格変動も起こり得るため、何も知らずに飛びつくと「思ったほど儲からない」「かえって損をした」という事態になりかねません。こうしたデメリットを踏まえた上で、次章からは具体的な金投資の方法ごとの特徴や選び方のポイントを解説します。
金投資の種類と特徴
金への投資方法にはいくつか種類があり、それぞれメリット・デメリットや適性があります。ここでは代表的な純金積立、金ETF・投資信託、現物金の特徴と留意点を見ていきましょう。
純金積立はやめとけ、となぜ言われる?
まず、金投資の一つである純金積立についてです。純金積立とは、証券会社や貴金属販売会社の口座を通じて毎月一定額の金を積立購入するサービスのことを指します。少額からコツコツ金を買い増やせるため、初心者向けとも言われます。しかしインターネット上では「純金積立はやめとけ(やめたほうがいい)」という意見も見られます。その理由は主にコスト面のデメリットにあります。
購入手数料とスプレッドのデメリット
純金積立では、購入のたびに手数料がかかるケースが一般的です。たとえば大手貴金属商の純金積立では、購入金額に対して約2~3%の手数料が設定されています。一方で株式の売買手数料は数百万円の取引でも数千円(割合にして0.1%未満)程度、通常の投資信託でも購入時手数料は0~1%程度です。それと比べると純金積立の手数料負担は際立って高く、投資効率が悪いと指摘されています 。さらに積立で金を買う場合、買付時と売却時の価格差(スプレッド)が他の方法より広めに設定される傾向があります 。購入時に高めの価格が適用され、売却時には低めの価格になるため、売却益が出にくくなるのです。取引回数が増える積立方式では、この価格差によるロスも蓄積しがちです。
利息や配当など保有していてもインカムゲインが得られない構造
また金自体の特性として、積立で資産を増やしても利息・配当といった収入が得られないため、副次的な利益は望めません。長期間積み立てて金の量を増やしても、大きく価格が上昇しなければリターンは手数料に食われてしまい、「思ったほど増えない」という結果にもなりかねません。実際、「純金積立では大きな利益は望みにくい」との声があるのは事実です。
純金積立はコツコツ金資産を積み立てられることが最大のメリット
こうした理由から、「純金積立はやめたほうがいい」「効率が悪い」といわれることがあります。ただしこれは純金積立そのものが全く無価値という意味ではありません。純金積立にも利点はあり、少額から自動で金を買い付けられる手軽さは他に代えがたいメリットです 。毎月一定額を積み立てることで、価格が高い時は少なめに、安い時は多めに買うドルコスト平均法が働き、高値掴みのリスクを抑える効果もあります。したがって、長期的にコツコツ金資産を築きたい人にとって純金積立は有力な方法です。
他の金投資手段との比較検討が重要
重要なのは、純金積立のコスト構造を理解し、他の手段とも比較した上で選ぶことです。もし手数料負担が気になる場合、代替として現物の金地金をまとめて買う方法や、後述する金ETFを利用する方法も検討できます。現物購入であれば積立特有の毎回の買付手数料は不要ですし、安値で現物を買って高値で売ることで大きな利益を得ることも可能です。純金積立を否定する意見は「もっと低コストな手段がある」という趣旨であることが多いので、金投資をする際は純金積立に限らず複数の方法のメリット・デメリットを比較検討することが大切でしょう。
金ETFと投資信託の違い
金投資には金ETF(上場投資信託)や金連動型の投資信託(非上場の公募投信)を利用する方法もあります。これらは現物の金そのものではなく、金価格に連動する金融商品に投資する形です。金ETFと金投資信託は何が違うのか、主なポイントを整理します。
まず金ETFとは、証券取引所に上場している金価格連動型の投資信託のことです。株式と同様に市場の取引時間中にリアルタイムで売買でき、代表的なものに「SPDRゴールド・シェア」や「純金上場信託(国内上場ETF)」などがあります。一方、金投資信託(非上場投信)は証券会社や銀行を通じて購入する通常の投資信託で、1日一度基準価額が計算される形で売買するものです。代表例として「●●ゴールドファンド」といった名前で販売されています。
両者の最大の違いは手数料体系と流動性です。金ETFは株式同様の扱いのため、購入時手数料は証券会社によって異なりますが、ネット証券を利用すれば購入手数料が無料という場合も多いです 。代わりにETFの場合、保有中に信託報酬(運用管理費用)がかかり、その年率は概ね0.4%前後と比較的低めに設定されています 。例えば国内の金ETF「純金上場信託」は信託報酬年0.44%、米国上場の「iシェアーズ・ゴールドトラスト」は0.25%など低コストです。一方、金投資信託(非上場型)は購入時に販売手数料(最大1%程度)がかかるものが多く、さらに信託報酬も年0.5~1.0%程度とETFより高めに設定される傾向があります 。実際の例では、「三菱UFJ純金ファンド」は購入時手数料上限1.10%、信託報酬実質0.99%とされています。このようにETFに比べて投資信託はコスト面で不利な場合が多いです。
流動性の面では、金ETFは市場でリアルタイムに売買できるため、好きなタイミングで売買しやすく現金化が迅速です。価格も市場の需給で決まるため、指値注文など細かな取引も可能です。これに対し金投資信託は、一日に一度算出される基準価額での売買となり、解約(売却)してから実際に換金されるまで数日要するケースもあります。機動的な取引をしたいならETF、有価証券の売買に慣れていない場合や少額から積立で買いたいなら投資信託という住み分けになります。
税制面では、金ETFも金投資信託も金融商品として譲渡益は20.315%の申告分離課税となり基本的に同じ扱いです。ただしNISAとの相性を考えるとETFに軍配が上がります。金ETFの多くは新NISAの成長投資枠の対象商品となっており、NISA枠内で購入すれば売却益が非課税になります。実際、「これから新NISAで資産形成を始める初心者には、コストの低いETFがおすすめ」との専門家の指摘もあります。一方、従来のつみたてNISAでは金関連投信は対象外であったため、金投資信託は基本的に課税口座で運用せざるを得ませんでした。こうした点からも、コストと利便性重視なら金ETFを選ぶ価値が高いでしょう。
まとめると、金ETFは低コスト・高流動性で短期から長期まで機動的な運用に向き、金投資信託は積立投資のしやすさや銀行経由で買える手軽さがあるといえます。それぞれの特徴を踏まえ、自分の投資スタイルに合った方を選ぶとよいでしょう。迷った場合や証券口座を既にお持ちの場合は、総じて費用負担が小さい金ETFの利用が無難です。
現物金 vs. 金関連金融商品
最後に、現物の金(地金・コイン)を直接保有する方法と、上述した金の金融商品(純金積立やETF等)による間接保有との違いについて整理します。それぞれ利点と注意点が異なります。
現物の金地金・金貨を保有する場合
実物の金を自分で保有する最大のメリットは、自分の手元に実価値のある資産を置いておける安心感でしょう。金そのものを所有していれば、仮に金融機関や発行体が破綻しても金自体の価値は残りますし、極端な話、世界のどこでもそれを売却してお金に換えることができます。誰の負債でもない純資産である点は現物保有の強みです。また金貨や金の延べ棒はコレクション性もあり、「資産を持つ喜び」を実感しやすいという側面もあります。税制面では、現物の金を売却して得た利益には年間50万円まで特別控除が適用され、長期保有(5年超)の場合は課税対象額が1/2になる優遇があります。そのため少額の利益なら非課税で済む可能性があり、利益が出た時に有利な点もあります。ただし、現物保有には前述の盗難・紛失リスクや保管コストが伴います。自宅保管では不安という場合、銀行の貸金庫や販売業者の保管サービスを使うことになり、年数万円の費用がかかります。また現物を少額ずつ買い増すのは非効率です。小さな地金には製造コストに見合ったプレミアム(スモールバーチャージ)が上乗せされ割高になるため、できればある程度まとまった重量(例えば500g以上)で購入したほうがグラム当たり単価は割安になります。換金の際も、自身で貴金属店に持ち込んで売却する手間がかかります。さらに、現物売却による損失は税務上、他の株式などの利益と相殺(損益通算)できない点も覚えておきたいポイントです。
金ETF・純金積立など金融商品で保有する場合
金を金融商品として保有するメリットは、保管や管理の手間がかからず手軽なことです。実物を持たないため盗難の心配もなく、インターネット上で完結して取引できます 。売買もワンクリックで済み、必要なときにすぐ現金化できる流動性の高さも魅力です。少額から購入でき、積立設定をすれば自動で買い増せるなど、利便性という点では現物より勝ります。費用面でも、純金積立には購入手数料がかかるものの現物購入ほど高額ではなく(小口ならむしろ現物より割安)、金ETFに至っては保有時の年数%の信託報酬程度で現物保有コストより安く済むケースが多いです。税金面では前述のように売却益は株式等と同じ分離課税20.315%で統一されており、他の金融商品の損益と通算できる分、トータルで有利になることもあります。一方で金融商品としての金は厳密には「紙の上の約束」に依存する部分があります。例えば金ETFは信託銀行等に現物の裏付け資産を保有していますが、理論上は運用会社や受託者に信用リスクがゼロではありません(もっとも信託財産として分別管理されているため、通常は投資家資産は保全されます)。また商品によっては為替変動の影響(円建てかドル建てかの違い)を受ける場合もあります。これらは商品選択時に確認すべき点です。
総じて、手元に置く安心感と引き換えにコスト・手間が増えるのが現物、手軽さと低コストの代わりに実物資産としての実感がないのが金融商品という対比になります。初心者の方や少額から始める場合は、まず純金積立や金ETFなどから検討し、慣れてきたら資産の一部を現物の金貨や地金で持つという併用も一つの手です。自分の管理能力や投資額、目的に応じて適切な方法を選びましょう。
金投資を正しくポートフォリオに組み込む方法
金投資は単独で大きな利益を生む投資対象というより、ポートフォリオ(資産全体の構成)の中に適切な割合で組み入れることで効果を発揮する資産です。最後に、金を資産運用の中でどのように位置付け、どれくらいの比率を組み込むべきか考えてみましょう。
分散投資の観点から見た金の役割
一般に、株式や債券、不動産などと値動きの異なる資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のリスクを抑え安定したリターンを目指す手法を「分散投資」と呼びます。金はまさにこの分散投資の有力な構成要素の一つです。前述の通り、株式市場が不調のときに金が値上がりして資産を守ってくれるケースが多々あるため、金を一定割合持っておくことで他の資産の損失を補填し、資産全体の目減りを防ぐ効果が期待できます。「金は資産価値が目減りした際の保険」とも言われるゆえんです。特に、将来の不確実性が高まっている局面(インフレ懸念や地政学リスクの高まりなど)では、金の保有比率を高めておくことで資産防衛の安心感を得られます。逆に市場が安定成長している局面では金はあまり活躍しないため、比率を抑えるといった調整も有効でしょう。このように金は状況に応じてポートフォリオを支える「緩衝材」となる資産なのです。
ポートフォリオ中の金の適切な割合は?
それでは、資産全体に対してどの程度の割合で金を保有するのが適切でしょうか。これは各投資家のリスク許容度や市場見通しによって異なりますが、一般的な目安は5~15%程度とされています。貴金属大手の田中貴金属工業は「全資産の10~15%程度を金で保有するのが理想的なバランス」だと述べています。また別の専門家も、「投資全体のおよそ1割程度、多くても3割程度までを金に組み込むのが目安」だと指摘しています 。実際、世界的な機関投資家や富裕層ポートフォリオでも金の比率はだいたい数%~一桁台後半に収まるケースが多いようです。これは、金は有事の保険にはなるものの長期リターンは株式等に比べ低いため、高すぎる比率で持つと資産成長の機会を損ねる可能性があるからです。一方で全くゼロだとリスクヘッジ効果を享受できないため、少なくとも5%前後は組み入れるという考え方もあります。
重要なのは、自分の資産状況や市場環境を踏まえて柔軟に金の保有比率を調整することです。例えば将来的にインフレが加速しそうだとか、金融不安が高まっていると判断すれば金の比率を少し引き上げる、一方で株式市場が好調でリスク資産で積極運用したい局面では金の比率を下げる、といった戦略が考えられます。定期的にポートフォリオを見直し、金の割合を増減させることが大切です 。そうすることで、金投資のメリットを最大限活かしつつ資産全体の効率的な運用が図れるでしょう。
金投資を活用する際の注意点
最後に、金投資を行う上での注意点や心構えを整理します。メリット・デメリットを理解したうえで、以下のポイントに気を付けて運用すれば、金投資をより安全かつ有効に活用できるでしょう。
購入時の手数料・スプレッドに注意する
金を購入する際は、できるだけコストの低い手段や業者を選ぶことが大切です。現物購入なら信頼できる貴金属商の中でも手数料やスプレッドが比較的狭いところを探す、純金積立なら手数料率の低いサービスを選ぶ、ETFなら信託報酬の安い銘柄を使うなどの工夫ができます。特にスプレッド(売買差額)は知らないうちにコストとして差し引かれる部分なので要注意です。買った直後はそれだけで含み損からスタートすることになるため、長期保有前提でも無視できません。例えば、田中貴金属や石福金属など大手では比較的適正なスプレッドが設定されていますが、それでも日々変動します。複数社の価格を比較し、有利な条件で購入するように心がけましょう。また、金ETFや金投資信託でも証券会社によって手数料割引が異なります。小さな差でも長期では効いてきますので、「塵も積もれば山となる」という意識で余計なコストを抑える努力が肝心です。
長期保有か短期売買か方針を決める
金投資に限りませんが、事前に自分の投資スタンスを明確にしておくことも重要です。基本的に金は長期保有向きの資産であり、短期的な売買益を狙うのには適していません。金価格は短期では大きく上下に変動することがあり、その動きを正確に予測するのは困難です。むしろ短期的には急落するリスクもあるため、短期勝負を挑むと損失を被る可能性が高いでしょう。特に余裕資金がなく、近い将来現金化しなければならない予定がある人には金投資は不向きです。金価格が下がっても余裕をもって回復を待てる資金で運用することが大前提になります。「いつまで保有するのか」「どのくらい下落したら損切りするのか(あるいは長期なので売らずに保有を続けるのか)」といったルールを決めておくと、価格変動に右往左往せずに済みます。金は長期で見れば緩やかな上昇傾向にある資産ではありますが、短期では想定外の動きをすることもあります。「短期で儲けよう」と焦らず、腰を据えて付き合う覚悟を持つことが大切です。
市場環境に応じて金投資の比率を見直す
前述したように、金は経済状況によって役割が増減する資産です。定期的にポートフォリオ全体を点検し、必要に応じて金の保有割合を調整しましょう。例えば、インフレ懸念が高まってきたら金の比率を引き上げることで通貨価値目減りのリスクに備えることができます。逆に株式市場が好調で当面リスク資産での運用を重視したいと判断したら、金の比率をやや引き下げてリターン狙いの資産に比重を置くのも賢明です。このように環境に応じて柔軟に金投資を位置付けることで、ポートフォリオ全体のパフォーマンスと安定性のバランスを最適化できます。また金価格自体も年々変動しますので、最初に決めた比率から大きく乖離した場合はリバランス(配分調整)を行いましょう。金の比率が上がりすぎていれば一部売却し、下がりすぎていれば買い増すことで、常に自分の目標配分を維持することが重要です。
以上の点を意識して運用すれば、金投資のリスクを抑えつつそのメリットを享受できるでしょう。焦らず、欲張りすぎず、計画的に―これが金投資と上手に付き合うコツです。
まとめ: 金投資は適切に活用すれば有効な資産運用手段になる
「金投資はやめたほうがいいのか?」という疑問に対して、本記事では金投資の特性を踏まえながら解説してきました。確かに金投資には「利息や配当がない」「手数料やスプレッドが割高」といったデメリットや注意点が存在し、それゆえに否定的な意見があるのも事実です。しかし、それらの短所ばかりに囚われて金投資そのものを敬遠してしまうのは賢明ではありません。金には有事に強く資産の価値を守るという他の資産にはない魅力があり、適切にポートフォリオに組み入れれば資産運用の安定性を高めることができます。実際、「金投資はやめとけ」という断定的なアドバイスを真に受けずに、金を活用してポートフォリオバランスを取り安定収益を得ている投資家も少なくありません。
要は金投資のメリット・デメリットを正しく理解し、自分に合った範囲で上手に活用することが肝心です。金だけに全財産を投じるのではなく、株式や債券など他の資産と組み合わせて適切な配分で保有すれば、金は頼もしい分散投資の一翼を担ってくれるでしょう。逆に特徴を無視して無計画に投資すれば思わぬ損失を招く可能性もあるため、本記事で述べた注意点を踏まえて賢く付き合ってください。
結論として、金投資は「やめたほうがいい」ものではなく、「使い方次第」で資産形成に有効な武器となり得る投資手段です。将来への不安が多い時代だからこそ、金という資産の特性を理解し、ぜひご自身のポートフォリオにおいて適切に活用してみてください。そうすれば、金はきっと堅実な味方となってあなたの大切な資産を守り、育てる一助となってくれるはずです。参考になれば幸いです。